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犬と王子4
幻:カ王...2006.03.01 Wed
「カイル!!」

「へ?」

天気も良くて、珍しく何事も無くのんびりとした日。
ぼんやりと水面を眺めていたら、突然背後から衝撃を受けた。



・例えばそんな日・



「わっ、へ、何?…って、え?」

受けた衝撃で前にのめる間もなく、しがみ付いて来た相手によってくるりと体を反転させられる。
一瞬見えたのは、サラサラと揺れる長い青銀の髪。
と、ヒラヒラと舞うスカートの裾。

「えーと…」

まさか。
この拠点にこんなに綺麗な青銀の髪を持つ人間はただ一人で、その人物は自分もよーっく知ってる人で。
声だって、この自分が聞き間違える訳も無くて。
でも、確かに見えたのは女性の衣服。
まさかまさか。

「…もしかしなくても、王子?」

「……」

返事はない。
けれど、それで確信する。

「王子、なんですね?」

また何だってそんな格好を。
背中にしがみ付かれているので良くは見えないが、明らかに女装である。
確かに女性と見紛うばかりの美人ではあるが、そんな趣味は無かったはずだ。

「王子?」

「……み、ミアキス、が…」

ボソボソと紡がれる声に、大体の事情を察する。
常々王子に女装をさせようと企んでいた彼女の事、姫様に会えなくて寂しいだの何だのと理由をつけて、前々からの計画を実行に移そうとしたのだろう。
優しい王子が強く断れないのを良い事に。
どうみたって今の王子の服装は姫様が着ていた服とは掛け離れているのだが。

――まさか城に居る頃から狙われていたなんて、王子も知らないんだろうなぁ…。

空を見上げて息を吐く。
本当に、女性という生き物はどんな状況でも強かだ。

それにしても。

「リオンちゃんはどうしたんです?」

いつも傍で付き従っている彼女が止めに入らない筈が無いと思うのだが。

「……」

「王子ー?」

「…リオンも、何でか一緒になって盛り上がってて…」

「あぁ…そうです、か」

あんなに目を輝かせたリオンは初めて見たかもしれない…。
そう呟く王子にまた天を仰ぐ。
まぁ、確かに着飾らせたい心情は分からないでもないけれど。
何より王子馬鹿な少女の事だ、同僚に可愛い王子を見たくないかと唆されれば、その気にもなってしまうだろう。
最後の砦だった筈の少女にまで寝返られては、自分の所に逃げ込んでくるのも道理か。

――まぁ、こうやって密着されてる状況っていうのは、ありがたいんですけどね~…

でもどうせなら前からが良かったなぁ。
折角堂々と抱き締められるチャンスだったのにと心の中でぼやく。
チラリと背後を見やれば、いつもは結われている長い髪が自由に風に舞っている。
その髪に触れたいと思いながら、それでも今自分がすべき事はそうじゃないと己に言い聞かせる。

「それで、オレは壁になってれば良いんですねー?」

「ご、ごめん…」

「良いですよー、役得ですし」

「え?」

「いえいえ」

気にしないで下さいと手を振って、ひっそりと笑う。
こんな機会なんて、滅多に無い。
存分に堪能させてもらおう。


天気が良くて、珍しく何事も無くのんびりした日に降って湧いた幸運。

暖かな陽射しを前に、温かな体温を背中に。



例えばそんな、幸せな日。


・了・

色々失敗。
そしてヘタレ犬。
女装ネタは、本拠地でのミアキスの台詞から。(この周辺のイベント進行うろ覚えなんで時間設定がおかしいかもしれません)
普通なら此処でカイルにハグなりチューなりで襲わせる所なんでしょうけど、ウチのはへタレ犬ですから。
ご主人様を襲うなんて無理も無理でした。はは…
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犬と王子3
幻:カ王...2006.03.01 Wed
「王子ー、入りますよー」

失礼しまーすと声をかけてドアを開ける。
返事が無いのは気にしない。
声をかけたのだって、形的なものなのだ。
応えるべき人は、今はまだ夢の中。
眠る王子様を起こすのが、本日最初のお仕事と言う訳だ。

城ではいつもお付の侍女か護衛の少女がその役を担っていたから、自分に回って来る事は無かったのだが。

此処に来て良かった事の一つは、これだ。
目を覚まして一番に、自分の姿を映して貰える。
それが、どんなに幸せか。
不謹慎なのは重々承知だが、けれどあそこに居た頃よりずっと、大事な人が近い。
王子を守ることだけを考えて、誰に憚る事無く王子を守る為に傍に居られる。
女王と王女が至上のあの箱庭の中では出来なかった事。


尤も、こんな形で得たかった訳ではないけれど。



見下ろす先の、眠る人の長い睫を濡らす涙。
人前では泣けない人が、理性の管轄を離れて唯一泣ける時。
夢の中で位、幸せで居て欲しいと思うのに。夢の中でしか泣けないから、悲しい夢を見る。

「…王子」

流れる青銀の髪を人房掬って、静かに口付ける。
誓いを、込めて。

「貴方は、必ず護ります」

この身に代えても。
本来ならば為す事は出来なかった誓い。
騎士の忠誠は、女王に在るべきで。
けれど、今の主は目の前の少年だ。

魂を懸けるなら、この人の為だとずっと心に決めていた。

国の為に命を賭したとしても、魂はたった一人の為に。

「護らせて、下さいね…?」

一人で闘わないで。
一人で苦しまないで。
ほんの少しでも良いから、貴方の背負うものをオレにも預けてください。

起きている貴方には言えないから、もう少しだけ、目を覚まさないで――…。





訳がわからん。
本拠地入手後の話、です。
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